公道をバイクで走る─普通に考えれば当たり前のことかもしれません。しかし、障がいを抱えた彼らにとっては決して当たり前のことではないのです。好きなのに、諦めなければいけない。でも、もう一度バイクに乗って仲間と走りたい。その思いは、いつか叶えたい夢になっていました。
そんな障がいのある人々に、ツーリングを楽しんでもらいたい。一般社団法人SSP(サイドスタンドプロジェクト)による、「やるぜっ!!箱根ターンパイク2023」が9月10日(日)に開催されました。
※一般社団法人SSPについて詳しくはこちら
パラモトライダーが憧れの聖地に集結
まだ残暑が続く9月上旬にもかかわらず、標高1,000mを超える箱根の峠には涼やかな風が吹いていました。まさに、ツーリング日和。アネスト岩田 ターンパイク箱根では2回目の開催となる今回も、13名のパラモトライダー※をはじめ、友人やボランティアスタッフが大勢集まり、熱気に満ちていました。
本来であれば、パラモトライダーは公道を走れません。しかし、「やるぜっ!!箱根ターンパイク2023」では、完全に貸し切ることで、パラモトライダーでもバイクで公道を走れるという夢を現実にしたのです。
※パラモトライダーとは、病気や事故などで障がいを負ったライダーのこと。
峠道を、風をきってツーリング
いよいよスタートが間近に迫る中、バイクに乗り込むパラモトライダーたちは緊張感を漂わせていました。それもそのはず、走り出した先に待っているのは、峠道ならではのカーブや路面のアップダウン。バランスを崩しても、下半身不随の障がいなどにより途中で止まることができないのです。
そんな緊張感を一気に打ち消したのが、高らかに鳴り響くエンジン音でした。ひしひしと伝わってくる興奮と夢が叶う瞬間への熱い想い。合図とともにバイクは徐々に速度を上げ、声援を浴びながら、風をきって駆け出していきました。
コースは往復およそ26km。見渡せば緑豊かな森林、眼下には相模湾や街並み、そしてすぐそばに一緒に走る仲間の姿。爽やかな空気を、流れる景色を、ともに分かち合う喜びがありました。ツーリングの醍醐味を心から楽しんでいる、そんな姿が印象的でした。
最高の気持ちよさと感動と
パラモトライダーたちが次々とゴールする中、ヘルメットの下から笑顔を見せてくれたのは、今回が箱根ターンパイク初参加となる吉村陽平さん。
「最高の気分ですね!スピードが上がるほど風が冷たくなっていくのが気持ち良くて。途中、低速になるUターンでは緊張しましたが、ずっと楽しかったです。
箱根はライダーにとって伝説的な場所。一度は走ってみたくて、今回、自分で掴みに行って夢を叶えることができました。こういう機会はなかなか与えられるものではないので、ぜひ多くの人にトライしてもらいたいなと思います。」
同じく初参加となった早岐伸子さんは、旦那様の慎吾さんと一緒にその想いを聞かせてくれました。
「本番の数週間前から緊張していました。でも、走り始めてからは先導のバイクがいい感じで引っ張ってくれたので、スピードに乗ることができました。
今日は、昔よくツーリングしていた仲間も参加してくれて、彼らと最後に走ったのが箱根だったんですよね。右半身麻痺になる前のことでした。本当にまた走れるなんて。ミラー越しに仲間の姿を見て、ここでしか味わえない感動をもらいました。(早岐伸子さん)」
「妻のリハビリ中にSNSでSSPのプロジェクトのことを知り、バイクに乗るという目標がモチベーションにもつながるのではないかと思い、声をかけました。今日という日が来るのを信じて、ジャケットやヘルメットを取っておいて良かったです。(早岐慎吾さん)」
隔たりのない社会へ、走り続けていく
イベント終了後、SSP代表理事の青木治親さんはこう語りました。
「障がいによって夢を諦めかけていた皆さんが公道を走る喜びに満ちた姿を見られて、本当にうれしいです。このイベントでは仲間と一緒に走れるので、再びバイクという絆でつながることができる。同じ風を感じた興奮をともに語り合えることが、私たちにとって最大の願いでもあります。
今後は、箱根だけでなく全国のいろんな道を、自分の好きなオートバイで走れるようにしていきたい。そして、誰にとっても隔たりのない社会をつくることを目指していきたいですね。」
夕方の穏やかな空気が漂う中、無事にすべてのパラモトライダーたちが走り終えた箱根路。小さなチャレンジを大きな夢につなげていった彼らの熱気と喜びの声が、いつまでも響き渡っていました。
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