北海道伊達市、真っ白な雪に覆われた小高い丘に立つ三角屋根の建物。ここが、社会福祉法人タラプの運営する障がい福祉サービス事業所i・boxです。2003年に伊達市初の精神障がいのある方のための就労支援施設として開設し、現在ではおよそ70名の方がパン製造や売店運営業務等のさまざまな仕事を通じて、働く喜びを感じながら一般就労を目指しています。この場所から、彼らの”夢の懸け橋”としてタラプはどんな取り組みを行い、どんな理想を掲げているのか、i・box施設長の奥出さんに話を聞きました。

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安定した生活を守るために、確かな工賃を

奥出さん:「私たちは就労支援はもちろんのこと、利用者さん※のさらなる工賃アップを使命としています。創業時からの揺るぎない信念ですね。工賃とは、障がいを持つ方に働く対価としてお支払いする給与のようなものですが、障がい福祉サービス事業というと低賃金というイメージがずっと定着していました。
この現状を私たちはとにかく脱却したかったんです。皆さん働く意欲があって、しっかり仕事をしてくれている。確かな工賃として還元すべきですよね」
※i・boxで働く障がいのある方々のこと

工賃に対する揺るぎない想いを、熱く語ってくださった奥出さん

工賃を上げるためには、これまでより高品質なパンを、より適正な価格で販売することが必要になります。そこでタラプでは、競輪とオートレースの補助事業を通じて、パンの焼きと発酵が一台でできる最新式のドウコン一体型のオーブンを購入することに。

パン製造用ドウコン一体型オーブン。夜間に自動で発酵作業が行えるようになり、より安定した製造が可能に

奥出さん:「新しいオーブンは機能性も高く、仕上がりの質はもちろん、一度に製造できる量も増えました。製造販売量が増えれば、収入の増加にもつながります。i・boxではその収入を工賃として還元するだけでなく、ボーナスや皆勤・精勤手当としてお渡ししています。工賃という対価は、安定した生活を守るだけではなく、利用者さんの働きがいや自信にもつながっているようです」

パンが焼き上がると、工房内はおいしい香りでいっぱいに

働く姿を間近に、互いに支えられる日々

現在i・boxでは、地元の食材を使ったパンを製造販売し、地域活性化にも貢献しています。とくに人気のパンが、サクッと香ばしい食感のクロワッサン。工房でパン作りを手掛ける職員の吉田さんに話を伺いました。

吉田さん:「オーブン導入を機に、新しい商品の開発ができ、パンのバリエーションも広がっていっています。工房内でも、おいしそう!という声を利用者さんからかけてもらうことも多いんですよ。私は、利用者さんの働きぶりを間近で見てきていますが、とても頼もしく、本当に助かっています。今後は、皆さんと試食会などを開いて、いろんな意見やアイデアをもらってみたいですね」

穏やかな笑顔で工房内の様子を語ってくれた、吉田さん

勤務13年目になる利用者さん。「私の適性にあわせて仕事を頼んでくれるので働きやすい。工賃はほとんど生活費ですが、好きな歌手のCDを買うこともあります」

「日々鍛錬でがんばっています。もらった工賃はしっかり貯めて、いつか北海道のまだ行っていない場所を旅してみたいと思っています」

おいしいパンが結びつける、地域のコミュニティへ

工賃向上のためには、パンをたくさん作り、たくさん売るための販路拡大が欠かせない目標となるが、それだけではないと奥出さんは語ります。

奥出さん:「うちのパンは本当においしいんですよ。そのおいしさの中に利用者さんの魂が込められているからこそ、一人でも多くの人に食べてもらい、感じてもらいたいという気持ちも大きいですね」

そんなi・boxで作られたパンは、現在伊達市内2ヵ所の店舗で販売されています。ひとつは、道の駅だて歴史の杜の伊達市観光物産館内にある「boulangerie ibox(ブーランジェリー・アイボックス)」。ショーケースには香ばしく焼かれたパンがずらりと並び、平日ながらも、入れ代わり立ち代わりお客様が訪れていました。

来店された方に話を聞くと、「障がいのある方が作られていることは知りませんでした。でも、どのパンもおいしそうで食べるのが楽しみです」「私は地元に住んでいるので、i・boxが就労支援施設として社会に貢献してくれていることは知っていました。常連としてこれからも買い続けたいですね」というさまざまな声がありました。

木のぬくもりを感じる、あたたかみに満ちた店内

そして、もうひとつの店舗が「boulangerie ibox 弄月(ろうげつ)店」。居心地のよい空間の中で、パンとカフェを楽しむことができます。店内には焼き立てのパンだけでなく、利用者さんが作った可愛らしい小物なども飾られていました。早速、弄月店店長の武田さんに話を聞きました。

武田さん:「弄月店はオープンして3年になります。タラプのパン事業の集大成にしようという思いから開店しました。普通の店舗を構え、利用者さんと一緒に働くという、店舗と福祉施設が合体したようなものですね。利用者さんはここで働き、ときには来店されたお客様と会話したりすることも。楽しそうな姿を見ると、私もうれしくなります。

そんな利用者さんたちの働きに応えるためにも、売上を上げて、高工賃を目指すことは私たちの使命です。そのためにも、弄月店を地域のコミュニティの場にして、多くの人にうちのパンを味わっていただけるようにしていきたいです」

店長の武田さん。壁に掲げられたメニュー看板のイラストは、利用者さんが描いたもの

明日も食べたい、もっと食べたい、みんなに紹介したい。おいしいパンを作り続けることが、工賃向上につながっていく。障がいのある方々の安定した生活を守りながら、10年後の「利用者さんと職員が一緒になって作り上げたi・box」を目指し、タラプの挑戦はこれからも続いていきます。