大道芸や動物たちとのショーなど、様々な魅力を持ったエンターテイメントであるサーカス。そのポテンシャルは高く、海外ではフランスを中心に演劇やダンスなどを融合した、総合芸術としての「現代サーカス」が注目を集めています。しかし、日本ではまだ知名度が低いため、その道を志すアーティストを支援する機会も多くはありません。
日本の才能に、世界へと羽ばたくきっかけを──そんな思いから始まったのが、競輪とオートレースの補助事業が支援する、公益財団法人せたがや文化財団主催の現代サーカス交流プロジェクト『フィアース5』です。今回は10月27日(金)から3日間、世田谷パブリックシアターにて上演されました。

※公益財団法人せたがや文化財団について詳しくはこちら

日本のことわざをインスピレーションに

『フィアース5』は、フランスの現代サーカス界を牽引する演出家ラファエル・ボワテル氏と、若きサーカスアーティストとの国際共同制作により誕生した作品です。日本のことわざ「七転び八起き」から着想を得て創作されたもので、私たちの人生でも大切な困難に直面しても立ち向かう粘り強さを、サーカスの世界を舞台にリアルに描き出しています。

舞台を余すことなく使いながら、大胆なパフォーマンスで観客を魅せる

会場を満たした、表現者たちの熱量

公演初日、多くの観客がざわめく中、暗闇とともに静かに本番の幕が上がりました。ステージ上では綱渡りやエアリアルなどのテクニックを融合させながら、全身全霊をかけたパフォーマンスがときにシリアスに、ときにコミカルに繰り広げられていきます。セリフはほとんどなく、劇場内にこだまするのは激しい息遣いと音楽。そして、光と影を象徴するようなスポットライトが印象的に使われ、観客を独特な世界観へ引き込んでいきました。

光や激しく舞い上がる白い粉が一つひとつのシーンをドラマチックに

撮影:大洞博靖

何より「七転び八起き」がテーマにあるように、アーティストたちが滑り、転び、もがく姿は観ているこちらまで心が苦しくなるほど。しかし、彼らは諦めることなく、立ち上がる姿は私たちを勇気づけてくれます。やがて感情の叫びが爆発するように、壮大なスペクタクル感いっぱいに感動のフィナーレへ──。

拍手と歓声を浴びて、笑顔になるアーティストたち

伝えたいのは、“一緒”になろうとすることの大切さ

初日の終演後、演出のラファエル・ボワテル氏が作品やアーティストたちへの思いを語ってくれました。

「本作のテーマ「七転び八起き」は、人生やサーカスを象徴するような言葉です。失敗を糧にして前に進む姿を表現するため、アーティストたちにも練習の時から極限まで自分を追い込んでもらいました。彼らは多才さと意欲を持って全力で取り組み、作品をより素晴らしいものにしてくれました。
またこの作品は、国際的にフュージョン(融合)する出会いと交流の場でもありました。私たちはお互いの個性から学び、成長することができます。みんなが“一緒に”なろうとすることで、どれほど強くなり、幸せになるか。日本の皆様にお伝えできたのなら嬉しいです。」

20年来の日本好きで、創作のヒントを得ることも多いというラファエル氏

もっと多くの方に、劇場を楽しんでもらえるように

会場となった世田谷パブリックシアターの館長である高萩宏氏からは、作品だけでなく、今後の劇場の目標についての言葉もいただきました。

「『フィアース5』は国際交流や人材育成がベースにある作品。国内の才能が海外に羽ばたくために、その背中を押したり機会を与えたりできれば、と思っていました。その点が、競輪とオートレースの補助事業における“海外で活躍できる人材を育てていく”という、JKA様の補助理念とも合っているかと。今後も海外の作品を上演したり、一緒につくったりしていく試みは続けていきたいですね。
もう一つの目標としては、劇場に馴染みがない人でも足を運んでもらえるようにしていきたいと思っています。劇場は日常で見られないものが体験できる場所。ただ見るだけでなく、ワークショップのように参加する楽しみの提供も増やしていきたいです。」

真剣な表情で日本のサーカスや劇場への思いを語る高萩氏

アーティストたちや演出家、そして劇場の方々と、作品に関わる人たちが“一緒”になって日本のサーカスを取り巻く状況に立ち向かっている。そんな熱い思いが感じられた一夜になりました。