さまざまな技術を駆使し、沖縄県のものづくりを支える「沖縄県工業技術センター」(以下、工業技術センター)。後編では、沖縄県の伝統工芸品である壺屋焼と工業技術センターの関わりについて深掘りしていきます。そこで “壺屋やちむん通り”に佇む窯元「育陶園」に伺い、壺屋焼に携わる鶴田さんと工業技術センターの冝保さんのお二人に、どのようなやり取りがあり、最新技術がどう活かされているのかを伺いました。
職人さんが存分に技術を発揮できるよう、最新技術で支える
約300年続く壺屋焼の窯元「育陶園」は、那覇市内にある、庶民的でのどかな風景が広がる“壺屋やちむん通り”にあります。店内には、器やお皿、お土産としても人気のシーサーなど、どれも目を引くような美しさの焼物が並んでいました。

落ち着いた雰囲気の店内に並ぶ、ぬくもりあふれる壺屋焼
鶴田さん:「工業技術センター様で製造していただいた型は、様々な製品に活用しています。型でつくるというと大量生産品をイメージされるかもしれませんが、基本的には型でつくった素地に、職人さんが一つひとつ手作業で模様を彫り込んだり、絵を描いたりしています。3Dプリンターを活用したい理由としては、職人さんが時間をかけて習得した技術を次世代に残すためには、その技術を活かし、つくることや伝えることに集中できる時間をつくりだす必要があったからです」

言葉の端々に、職人さんたちへのリスペクトが感じられる鶴田さん
導入のきっかけになったのが、陶器の表面に塗る釉薬(うわぐすり)を試す陶片(テストピース)の製作方法について相談したことだったとか。

細やかな絵付けが施されたお皿も
冝保さん:「全部手作業でつくるのは大変ですからね。その頃にはプレス機械で加圧しても、素材の強度が保てることは試験していました。樹脂粉末による3Dプリンター自体、沖縄には工業技術センターにしかないですし、この機種については公設研究機関でも国内では最初に導入したんですよ。なので、良いタイミングだったと思います」
鶴田さん:「一度の釉薬のテストに100個や200個必要なので、手作業では本当に大変で(笑)。そこで工業技術センター様に相談したんです」
冝保さん:「2020年のことで、次の年には実際の器のための型の話に展開していましたね。もう足掛け4年、一緒にやらせてもらっています」
人と機械、両方の良いところを活かしながら
歴史ある伝統工芸品に最新技術を導入するとなると、周囲からの厳しい声もあったのでは──。ところが、壺屋焼と3Dプリンターの間には意外にも少なかったそうです。
冝保さん:「まったくなかったということはありませんが、世の中でDXが推進されていることもあり、導入や受け入れるハードルは以前より低くなっているように感じます。実際に私たちが試作して、実証してみることが大切で、そこから徐々にという流れですね」

店舗奥の工房で現物を見ながら、当時の様子を伺った
鶴田さん:「きっかけがテストピースという、商品ではなく、ろくろではつくりづらいものだったことが大きいかと。テストピースでの成果を踏まえて、角皿の素地などは職人さんによるろくろ技法ではなく、オリジナルの型を使った製法も良いかと思ったのです。全部機械に任せるというよりは、棲み分けが大事なんです。また、自分としては、常に新しいものには取り組みたいので、チャレンジしようと思いましたね」
現在はご自身でCADシステム※を使って型の設計をしたり、3Dプリンターを勉強しているという鶴田さん。壺屋焼を次世代に残すためにという、伝統と革新の交わりを感じることができました。
※ComputerAided Designの略称。工業や土木・建築などの分野で、コンピュータを使用し設計を支援するシステム。
伝統やつくり手に敬意を払いながら、次の世代への継承を
最後に、沖縄の伝統工芸の未来や今後の展望について、お二人にお話を伺いました。
鶴田さん:「こういった技術を導入することで、職人さんのものづくりを支えていきたいと思っています。たとえば、シーサーの耳ひとつ取っても、職人さんの個性が出るところなんですよ。職人さんが手でつくりだすものは独自の感性と言いますか、機械では真似できなかったり数値化できない部分も多くて。一方で、私やデザイナーがつくった試作品のデータを3Dプリンターで出力したものを職人さんに持っていって、そこに職人さんのアドバイスを加えて……というつくり方もできつつあります。私自身ももっと勉強して、この技術でしかできない形を生み出すなど、流れを発展させていきたいですね」
冝保さん:「壺屋焼はもちろん、伝統工芸以外の産業についても一緒に頑張っていきましょうという姿勢で、これからもサポートしていきたいです。製造や試作品以外に、プロモーションやデザインを手伝ってほしいという企業さんも増えています。自分は横断的にいろいろなところと関わる立場にいますし、工業技術センター自体も柔軟にプロジェクトを立ち上げたりもしているので。そういった環境や導入している機械をどんどん活用していって、沖縄県のものづくり産業をもっと元気にしていきたいと思っています」

壺屋焼の未来をともに見つめるふたりの絆が感じられた
沖縄県のものづくりの未来は、この島の風のように心地よく、海のようにどこまでも続いていく。そんな期待が募るような時間になりました。
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